【名張毒ぶどう酒事件】閉ざされた村で起こった事件。死刑囚となり獄中死した奥西は冤罪ではないのか?再審請求を棄却する裁判長たち

【名張毒ぶどう酒事件】閉ざされた村で起こった事件。死刑囚となり獄中死した奥西は冤罪ではないのか?再審請求を棄却する裁判長たち

事件概要

 

発生日1961年(昭和36年)3月28日の夜
発生場所三重県名張市葛尾(くずお)地区の公民館
内容公民館で行われた、地元の生活改善クラブ「三奈の会」の懇親会で、
女性会員用に用意されていたぶどう酒の中に農薬が混入されていた。
乾杯と同時に飲んだ女性会員のうち5人が死亡、12人が傷害を負った。
被害者30歳女性(「三奈の会」会長の妻、奥西の隣家)
34歳女性(奥西の妻)
25歳女性(前「三奈の会」会長)
36歳女性
36歳女性(奥西の愛人)
犯人奥西勝(おくにし まさる/当時35歳)
判決死刑(執行されず獄死)

冤罪の可能性が高いと指摘され続け、9度にわたる再審請求をするも
認められず八王子医療刑務所で死亡した(89歳没)

奥西の死刑判決が下ったあと建立された犠牲者慰霊碑(下画像)

youtube動画はこちら

事件の経緯

1961年3月28日
三重県名張市葛尾76番地の薦原地区公民館で、地区の農村生活改善クラブ「三奈の会」が開かれた。
参加者は男性12人と女性20人だった。

この席で男性には清酒、女性にはぶどう酒が出され、乾杯でぶどう酒を飲んだ女性17人が急性中毒の症状を訴え、5人が亡くなった。

清酒を出された男性と、ぶどう酒を飲まなかった女性3人に中毒症状が見られなかったため、女性が飲んだぶどう酒に原因があるとして調査。
その結果、ぶどう酒に農薬が混入されていることが判明した。

奥西の逮捕

重要参考人として「三奈の会」会員の男性3人を聴取。
・ぶどう酒の購入を決めた「三奈の会」会長
・酒屋でぶどう酒を買い会長宅まで自転車で運んだ青年
・会長宅から公民館まで運んだ奥西の3人が連日事情聴取を受けた。

奥西の場合、自宅にも警察官がついてきて泊まり込みで監視するなど、任意捜査の段階から事実上の拘束状態であった。

死亡した被害者の中に、奥西の妻愛人がいたため、「三角関係を一気に解消しようとした」ことが犯行の動機ではないかと言及される。

1961年4月2日
奥西は妻の犯行説を主張していた。
1961年4月3日
ぶどう酒への農薬混入を自白した。
三重県警察に逮捕される。

公判に出廷した奥西

犯行否認

ぶどう酒への農薬混入を自白した奥西だが、逮捕後の取り調べでは一転、容疑を否認した。

村八分にされた家族

奥西の家族は村八分にされ、転居している。
さらに共同墓地にあった奥西家の墓は墓地隣接の畑に一基だけ追い出された。

裁判での主張

奥西が認めている事
①奥西は、会場へのぶどう酒運搬を行っており、運搬した事は認めている。
②農薬の購入も認めている。
③妻、愛人女性との三角関係も認めている。

しかし、犯行については全面否認している。

争点

「動機」と「毒物投入の機会の有無」で争うこととなる。

検察側の主張
①公民館からみつかったぶどう酒瓶の王冠についた傷が、奥西が歯で噛(か)んだときについたものだとする鑑定書を提出。
②公民館にぶどう酒を運んだ後、1人になった10分間に、酒瓶の王冠を歯でこじ開けて、ニッカリンTを注ぎ込んだ。
ぶどう酒に農薬を入れる機会は、この10分間しかなかったと主張した。

第一審の判決は、無罪

1964年12月23日
第一審の判決は無罪であった。

検察側の主張に対し、
津地方裁判所(小川潤裁判長)
①王冠の傷について、4種類の鑑定の結果が一致せず。
「これによって個人識別をするのは容易でない」
「被告人の歯牙(しが)によってつけられたものか否かは不明」
②農薬を入れる機会は、会長宅にぶどう酒が置かれていた1時間ほどの時間帯にもある。
とした。

また、「家族や住民たちの証言をふまえ、奥西が妻と愛人を殺害しなければならないほど追い詰められていたとはいえない」と犯行動機にも疑問を呈している。

小川裁判長が検察側の問題性を指摘

捜査段階での関係者や住民の調書が、途中で一斉に供述が変わっている。
それは、奥西以外に毒を入れる機会がないという検察官の主張に沿うものとなっていた。
判決で、裁判長は「検察官の並々ならぬ努力の所産であり、このことは各該当の調書を一読すれば容易にこれを理解し得るところである」と述べて、暗に捜査の問題性を指摘した。

奥西の釈放

無罪判決後、三重刑務所から釈放。
ガソリンスタンドの店員として働いていた。
奥西の無罪を信じていた家族は「なぜ自白したんや」と問い詰めた。
奥西は「裁判でやっていないと言えば無罪になる、と警察に言われた。俺は絶対やってないよ」と答えている。

逆転、死刑判決

1969年9月10日 無罪判決から約5年後
名古屋高等裁判所(上田孝造裁判長)は、死刑を言い渡した。

①王冠の傷痕は奥西の歯形と一致するという当時権威の一人であった松倉豊治教授の鑑定結果を根拠に、傷跡は奥西の歯によるものと認定。
②犯行の機会があるのは、約10分間公民館内にただ一人でいた被告人以外ない。

また、三角関係が犯行の動機だという点についても
「被告人は、無口で、平素なにを考えているのかわからないような陰険な性格の持ち主であることが認められる」ため、十分考えられることだとした。

捜査段階での関係者の供述が一斉に変わったことも、変更前の供述が「記憶違い」であり、変更後の供述を「十分信用するに足る」としている。

奥西は高裁の有罪判決によりふたたび収監。
その後、死刑が確定した。

弁護側の証拠

王冠の歯形

有罪の根拠とされた歯形鑑定
事件現場からみつかった王冠の傷と、再現実験でできた傷を比較して「一致する」としているが、これは異なる倍率で写した写真を比較してることを明らかにした。
そして双方の王冠の傷を立体的に解析、三次元形状がまったく異なるとする鑑定を提出した。

10分間問題

農薬を入れる機会について、関係者の新たな証言を分析。奥西が公民館に10分間一人でいた事実はなかったと主張した。

捜査ノート

事件当時の名張警察署長が捜査の進捗状況を把握するために作成していたノートがある。
そのノートには、「10分間問題」に関する重要証人が、当初は異なる証言をしていたとして、その証人の供述の信用性に疑問を投げかけた。

ぶどう酒を開けた人物は他にいる

現場となった公民館で封緘紙の切れ端がみつかっている。犯人がここで「ふうかん紙」を破り、開栓。そして毒物を入れることができる。そして、ふうかん紙を破らなくても開栓して毒物を入れることは可能であることを示す再現実験を行った。

農薬、ニッカリンT

専門家が分析したところ、ニッカリンTは製造過程でできる成分が不純物として製品に混入しているが、犯行に使われたぶどう酒の分析では、その不純物が検出されていなかった。
また、ニッカリンTは赤い液体だと判明した。しかし事件で飲まれたぶどう酒は白ぶどう酒であり、事件後の鑑定でも赤い色は検出されていない。

ふうかん紙の糊の成分

「ふうかん紙」に製造段階とは異なる成分ののりが付いていることが鑑定の結果判明。真犯人が農薬を混入させたあとで貼り直した可能性がある

覆らない判決、裁判長たちの答え

再審を認めた裁判長と棄却した裁判長

※棄却した裁判長を赤字、再審を認めた裁判長を青地で表示

名古屋高裁(山本卓裁判長
「新証言をした証人たちが、なぜ再審段階で記憶を新たに思い出したのかが分からず、信用できない」と、新証言をことごとく退けた。

名古屋高裁(土川孝二裁判長
「ノートの記載内容は、捜査員からのまた聞きにより記載されたもので信用性に乏しい」

名古屋高裁(刑事1部、小出錞一裁判長
再審開始と死刑執行停止決定を出したが
名古屋高裁(刑事2部、門野博裁判長
再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却した。
最高裁第三小法廷(堀籠幸男裁判長
事件当時の鑑定を再現するなど審理を尽くすべき」として差し戻し。
名古屋高裁(下山保男裁判長
「ニッカリンTではないと証明するほどの証拠価値はない」
最高裁第一小法廷(桜井龍子裁判長
「事件に使われた毒物がニッカリンTであることと矛盾しない」

こうして11年半に及んだ第七次再審請求審を終わらせた。
この長いやりとりだが、これは第7次再審請求審である。

奥西の獄中死

奥西は、第9次再審請求の途中で、かねてより患っていた肺炎により
2015年(平成27年)10月4日、獄中で死亡した。(享年89歳)

遺志を継いだ妹

奥西の死後、その遺志を継ぎ死後再審として第10次請求を妹が行っている。

2024年(令和6年)1月29日
10次再審請求の特別抗告審につき、再審請求を棄却
弁護団は、直ちに第11次再審請求を準備する予定だと表明している。

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